多くアロマと異なり、花や葉ではなく「根」から香りを抽出するベチバー。雨に打たれた大地を思わせる、重く湿った香りの中に、どこかスモーキーさとカラメルのような甘さを感じさせる独特の香りを持つアロマです。
特有の存在感を持ち、香りの持続時間が長いことから、香水のベースとして採用されることも多くなっています。文字で聞いただけではピンとこない方でも、香りをかげば「どこかで匂ったことがあるような?」と感じるケースも多いでしょう。
ただ、ローズやレモン、ムスクのように、名前を聞いただけで香りを思い出せるような、メジャーな香りと言い難いことも事実です。では、ベチバーとは実際のところ、どのような特徴を持ち、どのような効果効能が期待できる香りなのでしょうか。
本記事では、ベチバーの基本情報から香りの特徴、気になる効果効能まで詳しく解説していきます。多くのアロマの中から、状況にあった香りをチョイスしたいと考えているのであれば、ぜひ参考にしてください。
- 高い鎮静・リラックス効果
- 快眠に導く効果
- PMS・更年期障害の緩和
ベチバーの香りの特徴
先述したように、ベチバーのアロマは「根」から抽出されます。そのため、ラベンダーやローズのように、華やかな香りとはいえません。香りの種類を陰陽に分ければ、ラベンダーやローズは「陽」、ベチバーは「陰」の香りだといえるでしょう。
しかし、濡れた土壌を思わせる独特の香りは、アロマに繰り返し触れるほど、癖になるような独特の魅力を持っています。触れる回数や個々人の好みによって、香りの印象が大きく異なる香りだともいえます。
また、植物としてのベチバーはイネ科の植物であり、複数の株がまとまって生えるため、一見すると穂が出る前のススキによく似た姿をしています。葉の部分は2~3mほど大きくなりますが、特筆すべきは香りのもととなる根の方。地上で茂る葉と同じように人の背丈に届くほど長く根を伸ばす植物です。
大地にしっかりと根を張り、陰から葉を支える在り様と同じく、他のアロマとブレンドすることで香りに深みを与えてくれるアロマでもあります。
ベチバーの系統
ベチバーの系統は「ウッディ系」です。樹皮や樹脂から香りを抽出する他のウッディ系と同じく、癖がありつつも比較的落ち着いた香りといえるでしょう。ウッディ系の中でも、湿り気を覚える香りと乾きを感じる香りがありますが、ベチバーは湿り気を覚えるウエットな香りです。
中でもベチバーは、雨上がりの土を思わせるウエットな香りでありながら、スモーキーさや甘さも感じられる非常に独特なアロマを持ちます。好き嫌いこそ分かれがちですが、好きな人にとっては他にはない唯一無二の香りとなってくれるでしょう。
なお、ベチバーは産地によって香りの傾向が異なる点も大きな特徴です。ハイグレードなものになるほど、特徴的な土っぽさ以外の香りが目立つため、手元にあるベチバーオイルの香りが苦手な場合は、産地を確認してみることもおすすめになります。
ベチバーの芳香成分
ベチバーの主な芳香成分は「クシモン」「ベチロン」「ベチセリネロール」などが挙げられます。クシモンとベチセリネロールは、「ベチベロール」と総称で呼ばれることも。
それぞれ、ベチバー特有のウッディな香りを演出する上で欠かせない成分といえるでしょう。
また微量に含まれる芳香成分として「β‐カリオフィレン」「α-グルジュネン」などが挙げられます。β-カリオフィレンもウッディ系の芳香成分になるため、方向性の異なる香りが重なることで、より深みのあるアロマを作り上げていると考えられるかもしれません。
ベチバーの基本情報
学名/科名 | Vetiveria zizanioides/イネ科 |
---|---|
花言葉 | - |
精油名 | ベチバー |
抽出部位根 | 根 |
抽出方法水蒸気蒸留法 | 水蒸気蒸留法 |
香りの強さ | 強め |
ノート | ベース |
主な産地 | インドネシア/インド/マレーシア/ミャンマー |
注意事項 | イネ科のためアレルギーがある方は要注意 |
ベチバーの効果と効能
ベチバーの香りの特徴や基本情報を把握した後は、気になる香りの効果効能について解説します。ベチバーは幅広い効果が期待できるため、シーンの合わせた利用がしやすいアロマだと分かるでしょう。
「静寂の精油」と呼ばれる高い鎮静効果
広大な大地というより、梅雨時期の地面の香りのような落ち着く香りを持つベチバーは、古くから高い鎮静作用があると知られています。静寂の精油と呼ばれることもあり、スピリチュアルな考え方では、地に足を付けた確固とした自身を確立する強いパワーがあるとも考えられてきました。
実際の鎮静効果に対して、人を対象に効果を検証したデータはまだまだ少ない状態です。ただ、ラットを用いた実験(※1)では、ベチバー精油を7分間吸入させたことで、抗不安薬を投与したような反応が確認されています。
古くから経験則でいわれてきた、高い鎮静作用も実際に期待できると考えられるでしょう。また、様々なアロマオイルをブレンドすることで、より心落ち着く空間を演出することも可能になるでしょう。
注意力低下を抑制
ベチバーの香りを空間にほのかに香らせることで、ビジランス低下の抑制結果が見られた実験(※2)もあります。「ビジランス」とは、警戒や用心・覚度といった意味を指し、ビジランス低下の抑制とは、つまるところ集中力の低下抑制を指すため、作業効率向上の期待が持てるといえるでしょう。
上記実験においてのポイントは、ビジランス低下の抑制が優位に見られたのは、「かすかな」アロマの香りであった点です。高濃度での実験においては、実験結果に差が見られなかったため、作業効率向上を期待する際には、ベチバーをほのかに香らせることが有効になるかもしれません。
PMS・更年期障害の緩和
深い鎮静効果・リラックス効果によって、PMSや更年期障害の緩和にも役立てられると考えられています。ほかにも不眠の改善・安眠効果などにも効果があるとされています。
精神的な不調を感じた際に取り入れやすいアロマだといえるでしょう。更年期特有のイライラを鎮め、不安な気持ちをなだめることで、余裕のある毎日を過ごせるようになる期待が持てます。
虫よけアロマとしての利用も可能
ベチバーの根は古くから虫よけの効果があるとされ、カーペットやすだれに根を編み込むという形で利用されてきました。そしてベチバーオイルが抽出されるようになってからは、より強力な虫よけのアイテムとして長年愛用されてきたのです。
昨今では、ベチバーオイルがゴキブリ忌避に高い効果が期待できるという実験結果(※3)も出ています。科学的な薬剤を使うことに抵抗がある場合など、非常に便利に利用できるでしょう。
また、抗菌・抗ウイルス効果、消臭効果も期待できるため、自宅・公共施設を問わず水周りでも活躍してくれます。アロマの中にはベチバー以外にも、虫よけ・抗菌抗ウイルスの効果が期待できるアロマがあります。複数のアロマオイルをブレンドすることで、自分だけの虫よけスプレーを作ることもできるでしょう。
ベチバーの香りのおすすめの使用&摂取方法
ベチバーには、様々な効果効能が期待できることを分かっていただけたと思います。そして、次に気になる点は「ベチバーの香りをどのように使えばよいのか」といった点でしょう。ここでは、ベチバーの香りのおすすめの使用法&接種方法について解説します。
心落ち着く時間を「アロマバス」
手軽にベチバーの香りを楽しみたいときは、湯船に1~2滴のアロマオイルをたらすだけでできる「アロマバス」がおすすめです。浴室全体にベチバーの香りを広げることができるため、1日の疲れをいやすバスタイムを演出できるでしょう。
アロマオイルをたらした後は、しっかりお湯と混ぜて攪拌させることが大切です。ベチバーは刺激のあるアロマオイルではありませんが、原液が直に肌に触れないよう気を付けましょう。
また、他のアロマオイルとブレンドすれば、ベチバーの香りが苦手な方でも扱いやすくなります。おすすめのブレンドアロマは、ベチバーと同じウッディ系にすると違和感を覚えることが少ないでしょう。ラベンダーやフランキンセンスなどフローラル系のアロマとブレンドした場合、甘さを抑えた香りを楽しめます。
虫対策に「スプレー」
ベチバーでナチュラルな虫よけ対策をしたい場合は、虫よけスプレーを自作する方法もおすすめです。作成方法は以下の通り。
- ベチバーオイル:3~10滴
- 無水エタノール:5ml
- 精製水:45ml
- 無水エタノールにベチバーオイルを適量入れ、しっかり混ぜた後に精製水を加える
- ゼラニウム:虫が嫌いな成分「シトロネラ―ル」を含む、ベチバーと併せると甘さ控えめの香りに
- レモングラス:虫が嫌う成分「シトラール」を含む、ベチバーと併せるとレモンのような香りが持続する
- ミント:虫が苦手とする「メントール成分」を含む、ベチバーと併せると香りの持続時間が長くなる
空間や無機物に噴霧する場合は、ベチバーオイル10滴にすると効果を実感しやすくなります。一方、直に肌にかけたい場合は、3~5滴程度に抑えておきましょう。
また、犬や猫などペットがいる場所でのアロマオイルの利用は基本的にNGです。特にベチバーに含まれる芳香成分クシモンはセスキテルペノイドであり、テルペン系は猫にとって有害な物質とされています。ペットがいる場合は屋外のみの利用にするなど、少しの工夫が必要です。
落ち着ける空間を演出「アロマディフューザー」
ベチバーの香りを空間いっぱいに広げたい場合は、アロマディフューザーを活用しましょう。アロマディフューザーを設置すれば、部屋の種類を問うことなく香りを楽しむことができます。
ベチバーの香りは鎮静作用や集中力アップ効果が期待できるため、個人宅の寝室やリビングから、ホテルのロビー・企業のオフィスなど様々な空間で活用できるでしょう。
またアロマディフューザーには多様な種類があり、種類によってデザインや香りの広がり方が大きく異なります。自宅で手軽にアロマを楽しみたいのであれば、気化式などでも問題ありませんが、ロビーなど広い空間で利用する場合は、専用のアロマディフューザーが必要です。
アロマを利用する頻度や、空間の広さ、香りをどのように広げたいかなど、条件に合わせてアロマディフューザーを選んでいきましょう。
まとめ
雨天時の大地を思わせるような、印象的な香りを持つ「ベチバー」について紹介してきました。本記事を振り返ると以下のようになります。
- ベチバーは花や葉ではなく「根」から抽出されるアロマ
- 鎮静・集中力アップ・虫よけなど様々な効果が期待できる
- おすすめの使い方はアロマバス・虫よけスプレー・アロマディフューザーの活用など
高い鎮静効果や虫よけ効果を持つことから、様々な時代を経て活用されてきたベチバー。期待できる効果効能が多岐にわたるため、現代でも多様なシーンで活用できることでしょう。
しかし、ラベンダーやシトラス系のように、万人に受け入れられやすい香りとはいえないことも事実です。効果効能が気に入っても、ベチバー単体で利用することは難しいと感じるケースもあるでしょう。そのようなときは、様々な香りに触れてきた香り・消臭のプロフェッショナルである弊社にお気軽にご相談ください。
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