ニューロマーケティングとは、脳科学の知識や技術を用いて、消費者の心理や無意識化で求めるニーズを分析しようとする比較的新しいマーケティングの手法を指します。
脳科学の知見を利用することで、消費者自身が意識していないニーズをつかめる可能性も高くなるでしょう。経済の冷え込みやモノがあふれていることで、簡単に自社の製品を選んでもらえない昨今では、マーケティングの重要性は非常に高くなっています。
だからこそ、正しいマーケティングの知識と、自社に合った方法を選択することが大切です。本記事ではニューロマーケティングの基本知識からメリット・デメリット、より情動に働きかけるとされる「ニオイの実例」までご紹介いたします。
ニューロマーケティングとは?
ニューロマーケティングとは、生体反応や神経的な反射を脳科学の知識や技術によって観測、マーケティングへ結びつける手法を指します。
ただ上記のような説明をされたところで「結局どのようなものなのか」は分かりづらいままでしょう。まずは「そもそもニューロマーケティングとは何か」について3つの指標から解説します。
生理指標(脳波や心拍数など)
整理指標とは脳波・心拍数をはじめとする「人が任意でコントロールできない生体反応」を数値化したものを指します。
生体反応は基本的に、無意識化の心理と連動しているため、感情分析に有効だと考えられています。
例えば1曲の音楽を聴いていたとしましょう。曲を聴く前より脳波や心拍が活性化していれば、それだけ曲を好み興味を示していると考えられます。反対に曲を聴く前と変わらない・生体反応が活性化していない場合は、好みの曲ではない・関心を向けられていないと考えられるでしょう。
もちろんすべての生体反応の活性化=プラスの感情と断言はできません。ケースによってはマイナスの感情であることも考えられるでしょう。しかし生体反応を数値化することで、どの部分で感情が動いたのかを視覚化することが可能になるのです。
行動指標(心身の変化)
行動指標とは、ある特定のものや商品を見たときの「視線・しぐさ・表情」などが変化するまでの時間や動きを測定することで、心身の変化を分析する手法です。
広告などを被験者に見せた上で、より長く視線をとどめていた部分がどこなのかを分析することによって、消費者にとってインパクトが強い広告を研究するようなことができます。行動指標を分析することで、人(消費者)がどのようなものに興味をひかれやすいのかを確認できるでしょう。
主観指標(アンケートなどの調査)
主観指標とは、従来のマーケティング手法でも使われてきた「アンケート」「ヒアリング」などと、ニューロマーケティングを組み合わせたものです。
消費者が認識できている欲求や意志と、生体指標や行動指標から示される潜在的なニーズを組み合わせる方法といえるでしょう。単純なアンケート結果に基づいたマーケティングより、より深い部分のニーズをくみ上げることが可能です。
ニューロマーケティング調査の3つの方法
では実際にニューロマーケティングを行おうと考えた場合、どのような調査方法があるのでしょうか?既存のマーケティング手法より深いニーズを探れる分、調査方法も特殊な手法が必要とされます。ここでは代表的な3つの方法を見ていきましょう。
アイトラッキング
アイトラッキングとは、日本語は「視線計測」と表されます。
ある特定の画像や映像を見せた際、消費者がどのように画像や映像を見ているかを視覚化する方法です。単純な例を挙げれば、1枚のポスターを被験者に見せた際、どの部分から確認し、より長く視線が止まっていた部分がどこなのかを、眼球の動きを線に置き換えることで確認できるのです。
アイトラッキングによる分析結果は、広告ポスターや商品パッケージなどで活用されます。より強いインパクトを与えられる、または魅力的な広告・パッケージ作りに貢献してくれるでしょう。
表情認識
表情認識は文字通り、消費者の表情を計測・分析することで感情を推し量ろうとする技術を指します。ここでいう表情とは、顔全体の表情と併せて唇や視線の揺らぎなど、ごく微細な動きも含まれるのだとか。
まだ試験段階的な機器も多いようですが、将来的にはニューロマーケティングにおける重要な指針になると考えられています。
表情認識を活用することで、広告・商品パッケージの作成おいて、より消費者にとって好ましいものを作り上げるサポートをしてくれるでしょう。
脳活動測定(fMRI)
脳活動測定(fMRI)はMRIを用いることによって、実質的な脳の活動を視覚化できる手法を指します。MRIとは基本的に病巣の発見などのために医療で使われてきた装置ですが、昨今ではマーケティングの分野においても活用されているのです。
測定・活用法としては、実際に商品やサービスを使っている際に、MRIを行い、脳のどの部分が活性化しているのかを確認します。脳の活動を視覚化できるため、商品・サービスへの評価を定量的に予測することが可能になるでしょう。
ただし脳内神経における情報の伝達については、いまだ未知数な部分が多いことも事実です。すべてのデータが確実に利用できるとは限らない点は知っておくべきでしょう。
ニューロマーケティングのメリットとデメリット
脳科学の知見を用いることで、より科学的な分析を行えるニューロマーケティングには、既存のマーケティングではなしえなかった大きなメリットがあります。
しかし同時にニューロマーケティングならではのデメリットがあることも確かです。より効率的にマーケティングを進めていくためにも、事前にメリット・デメリットを把握しておきましょう。
ニューロマーケティング
「人間の行動の95%は無意識下で行われている(1)」という言葉があるように、消費者は自身のニーズをすべて理解した上で消費行動を起こしているわけではありません。このことから現代のマーケティングでは、消費者が認識できていない、より深いニーズをつかむことが重要とされてきました。
無意識化のニーズを探るという意味では、ニューロマーケティングは潜在ニーズよりもっと無意識レベルが高いとされる「消費者インサイト」まで探れると考えられています。潜在ニーズとは、消費者自身も認識できていないニーズですが、アンケートや調査などによって引き出したり言語化できたりするニーズです。
しかし消費者インサイトは、消費者自身も認識できていない、まさしく「なんとなく」としか言語化できないニーズを指します。ニューロマーケティングでは科学的なアプローチができることから、従来のマーケティング手法では難しいとされた、「消費者インサイト」まで深く探ることが可能だと考えられるでしょう。
また人が人の感情や思考を完全に推し量ることは不可能ですが、ニューロマーケティングを利用することで、感情や思考をある程度数値化できるようになります。明確な数値をデータとして反映できるため、広告や商品パッケージをはじめとして、商品購入につながりやすい戦略を練ることができるでしょう。
(1)ハーバード大学・ジェラルド・ザルトマン博士の著書「心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす」内で触れている言葉
ニューロマーケティング
ニューロマーケティングを行う場合、初めにハードルとなるのが調査に必要な機器の用意です。上記で触れたアイトラッキング・表情認識・脳活動測定にはそれぞれ異なる機器が必要になります。
また機器をそろえるためには機器を設置するための設備、機器を操作する人材、脳科学分野における学問的な知識も必須です。そして測定で得られたデータを、マーケティングに昇華させられる人材も必要になるでしょう。
ニューロマーケティングは機器・設備・人材面において、最初のハードルが高いマーケティング手法だと考えられます。また生理・行動情報は非常にセンシティブな個人情報です。「マーケティングのためにどこまで踏み込んでよいのか」という倫理的な側面も慎重に判断する必要があるでしょう。
ニューロマーケティングの実例紹介
新しいマーケティング手法であるニューロマーケティングを実際に行った例はあるのでしょうか?ここではニューロマーケティングに関係する2つの実例について触れていきます。
ニオイに関する実例
1つ目はアース製薬株式会社と、SOOTH株式会社が合同で行った「ニオイ」に関するニューロマーケティング(※1)です。
検証内容は、対策をしていないお部屋のニオイと、消臭芳香剤を用いたお部屋のニオイでは、どのように気分の安定度が異なるのかを検証したものでした。測定に用いた手法はアンケートと、脳波測定です。
結果は消臭芳香剤を用いたお部屋の方が、気分の安定度が21%も向上するというものでした。また対策をされていない部屋では、継続的に気分の安定度が下がるという結果も見られています。このことから、ニオイは気分や感情を左右する要素の1つであることが明らかになったと考えられるでしょう。
そしてこの検証によって用いられた「消臭芳香剤の有用性」も実証できました。商品を使うことで、消費者がどのような効果を得られるのか、また商品への印象をデータとして得られたニューロマーケティングの実例だといえます。
生体の覚醒度を数値化した実例
2つ目は株式会社マクロミルが「バイオハザード RE:3」のマーケティングリサーチに際して、ニューロリサーチを行った(※2)ものです。
バイオハザードは1996年に1作目を発表した、株式会社カプコンの代表的なゲームの1つです。リサーチ当時、最新作となる「バイオハザード RE:3」の、さらなるサバイバルとホラーの体感度を向上させることを目的に行われました。
採用された測定方法は、テストプレイ中における生体反応の測定によって、プレイヤーの心理状態を分析しようとするものです。結果的にテストプレイ用として作られた作品から、さらなるアップデートを行うことが可能になりました。
ニューロリサーチ・ニューロマーケティングを行うことで、商品の品質を向上させることができた例だといえます。
弊社の香りの導入事例
ニューロマーケティングにおいて、ニオイの効果が実証されたと紹介しました。しかしニューロマーケティングに限らず、香りが人に与える影響は非常に大きなものです。
身近な例を挙げれば、ラベンダーの香りには安眠効果があるとされます。またミントやレモンの香りで集中力を向上させられる、という話も聞いたことがある方は多いでしょう。このように香りにこだわることで得られる効果やメリットは非常に豊富です。
ただし香りはさまざまな効果が期待できる反面、適切な選択や濃度調整が必要とされる少し難しい感覚でもあります。ここでは弊社が行ってきた香りの導入事例について紹介します。
ホテルの事例
ホテルフラッグス諫早様のエントランスホールに導入いただいた事例です。高級感を覚えるラグジュアリーな館内では、リラックスするとともにホテルならではの特別感を楽しめるようになっています。
旅行客としての利用はもちろん、館内施設にはレストラン、幻想的な雰囲気を漂わせるチャペルでのウエディング、地域の催し物でも利用できる宴会場まで利用が可能です。そんなホテルフラッグス諫早様では、弊社にご相談いただく前にも、他社様のフレグランスをご利用されていたそうです。
ただ、香りの薄さや拡散力の弱さから、あまりご満足されていなかった模様。より拡散力があり、ホテルをグレードアップできるような香りを求める中で、弊社にご相談いただきました。
ディフューザーの導入効果
- 導入いただいた香りはさわやかなシトラス系
- 天然香料と人工香料の組み合わせで奥行きのある香りを実現
- 高い拡散力と複雑な香りで、飽きがこない香りを程よく香らせることが可能
ホビーショップの事例
株式会社SOOTANG HOBBY様の、美術館を思わせる店内フレグランスとして導入いただいた事例です。
もともとは日本のフィギュアを輸入、中国に店舗を構えて販売されていましたが2014年に日本に進出。平積みの箱からお目当てのフィギュアを見つけるのではなく、美術館を思わせる展示と併せて、香りにもこだわりたいとのご相談をいただきました。
滞在時間の長さと購入率は比例すると分かっていることから、心地よい香りを用いることで滞在時間アップの効果を狙っています。弊社「シュバリテエール」を採用いただいた理由は、きつすぎることなく飽きることもない、上質な香りを評価いただけたと考えています。
ディフューザーの導入効果
- 気に入っていただけた香りは柑橘系とハーブを合わせた「アクアヴェルデ」
- 店舗に合わせたディフューザーの規模で、隅々まで香りを行きわたらせることが可能
- どこにいても心地よい香りに出会えるおしゃれな空間を実現
まとめ
- ニューロマーケティングは脳科学の知見を取り入れた新しいマーケティング手法
- 生理・行動・主観の3つの指標からなる
- 消費行動の「なんとなく」を明確なデータに変えられる
今回は比較的新しいマーケティング手法である「ニューロマーケティング」について紹介してきました。ニューロマーケティングに限らず、種類豊富なマーケティングの手法は、それぞれの特性・メリット・デメリットを把握した上で、自社に合った手法を選ぶことが重要です。
特にニューロマーケティングは、事前準備に必要な機器や設備、人材面のコストが高めです。いたずらに新しい手法だからと飛びつくのではなく、自社にとって本当に必要な手法なのかをしっかり確かめておきましょう。
マーケティングの手法が多岐にわたる昨今、ニューロマーケティングと併せて注目を集めているのが、ニオイ・香りを用いたマーケティングです。香りによるマーケティング・ブランディングに興味をお持ちの際には、弊社にお気軽にご相談ください。