ほのかに甘くパウダリーな香り、またどことなく動物的な香りや塩気を感じさせる香りも併せ持ち、複雑な芳香を楽しめるアロマが「アンバー(アンバーグリス)」です。古くは「龍涎香」とも呼ばれ、マッコウクジラの腸にできる結石が原材料。
現在、市場に出回っているアンバーはほぼ合成香料ですが、天然物とはどのような違いがあるのでしょうか?また香りは種類によって人に対する効果効能が異なります。アンバーに期待できる効果効能、使い方や香りの基本情報と共にご紹介します。
- 気持ちを穏やかにするリラックス効果
- 古くは媚薬として使われていたとされる
- 薬理活性の研究も進行中
アンバーの香りの特徴
甘いような塩っぽいような、複雑な香りが特徴的なアンバーの本来の名称は「アンバーグリス」。マッコウクジラの腸で生成される結石のことを指し、動物的、また塩っぽい香り、ビャクダンのような甘さやたばこのような香りなど、複数の香りを混ぜ込んだような特徴的な芳香を持ちます。
しかし前述したように、現在の香水などで利用されているアンバーは合成香料がほとんどです。より香りの特徴や芳香成分、同じアンバーと呼ばれながら全くの別物である「琥珀」との違いなど見ていきましょう。
アンバーの系統
アンバーの香りの系統を把握するには、最初に「アンバー」と呼ばれる数種類のアロマについて知らなければいけません。それぞれどんな香りなのか特徴などご紹介します。
(竜涎香)
マッコウクジラの腸から取れる結石から溶剤抽出した香り。動物的な香り、潮の香り、特有の甘さやたばこのような香りが混じった複雑なアロマが特徴
(合成香料)
商業的捕鯨の禁止、マッコウクジラの自然数減少などから、天然アンバーの代わりとして作られた合成香料。現在流通しているアンバー(竜涎香)はほぼこちら
(琥珀・樹脂)
松脂など樹木の樹脂が化石化したもの。宝石としての琥珀、合成香料のアンバーがある。香料としてのアンバー(琥珀・樹脂)はウッディ系の香り、アンバーグリスと混同される理由は名前の類似、海岸線で採取されやすく、燃やすとよい香りがすることから古くは同じものと考えられていたことによるもの
本記事では、アンバー(竜涎香)をメインに解説していきます。また竜涎香の香りの系統は、現在4種類しかないとされるアニマルノート。その特有の香り、ベースにすることで他の香りを長持ちさせる効果が得られることから、香水などで欠かせない芳香成分といわれています。
アンバーの芳香成分
上記までで紹介してきたように、現在流通しているアンバーはそのほとんどが合成香料です。しかしアンバー(竜涎香)でメインとなる芳香成分はすでに解明されているので、合成香料でもほとんど同じ香りを楽しめると考えられます。
主要芳香成分の一つは「テトラノルラブダン・オキサイド」と呼ばれるもの。また溶剤抽出処置前のアンバーに含まれ、テトラノルラブダン・オキサイドの前駆体となる「アンブレイン」も芳香成分の一つです。
他にもタバコの香りを持つとされる「γ-ディヒドローイオノン」、海藻のような香りを持つ「γ-コロナール」などが挙げられます。上記で紹介した成分は、いずれも天然のアンバー(竜涎香)に含まれるとされる成分なので、好みや予算によって合成香料では構成成分が変更されていることも考えられるでしょう。
アンバーの基本情報
学名/科名 | 麝香鹿 / Moschus属 |
---|---|
精油名 | アンバーグリス/竜涎香 |
抽出部位 | 結石 |
抽出方法 | 溶剤抽出法(年単位で熟成が必要) |
香りの強さ | 弱め |
ノート | ベースノート |
注意事項 | – ※アンバーグリス(天然素材)の場合 |
アンバーの効果と効能
現在では天然物の入手が難しく、海に浮かぶ金とも言われるアンバーの香りにはどのような効果が期待できるのでしょうか。ここからはアンバーの香りに期待できる効果について解説します。
リラックス&親しみ効果
アンバーの主な芳香成分の一つである、「テトラノルラブダン・オキサイド」には、特に女性の気持ちを穏やかにし、リラックスさせる効果が認められています。非喫煙者の女性22名を対象に行われた実験では、17-β-エストラジオール値(1)の有意な上昇、コルチゾール値の減少(2)が確認されました。
同実験では、被験者と同年齢の男女の写真を見せたときの反応も確認。17-β-エストラジオール値の有意な上昇が確認されたことで、人に対する親しみやすさや穏やかな気持ちになれることが実証(※1)されています。
ちなみに男性ホルモンであるテストステロンの上昇も確認されているので、男性にも効果があるのではと考えられています。
(1)主に卵巣で産生される女性ホルモン。副交感神経へ作用し穏やかになったりポジティブなったりするとされるエストロゲンの一種。
(2)副腎皮質から分泌されるホルモンの一つ。糖の新生、たんぱく質の代謝、抗炎症など人体にとって必須のホルモンだが、過剰なストレスを受けた際にも分泌されることからストレスホルモンとも呼ばれる。
薬理活性の研究も進行中
アンバーの主要芳香成分の中に「テトラノルラブダン・オキサイド」の前駆体になる「アンブレイン」。この成分の人工的な合成の確率、またアンブレインを用いた新しい薬理活性の研究も進行しています。
現在はまだ可能性が示唆された段階ではありますが、将来的に「骨代謝改善」「アルツハイマー病の予防」への効果が期待されている(※2)のです。アンバーは現在では非常に入手しにくく、とても貴重なものであることから、今までピンポイントでの研究があまりされてこなかった背景があります。
より精緻な合成が可能になることで、新たな効果効能が発見されるかもしれません。
アンバーの香りのおすすめの使用&摂取方法
すでに実証されている効果のほかに、新たな可能性にも満ちたアンバーの香り。では実際に香りを摂取するにはどのような方法があるのでしょうか。いくつかおすすめの方法をご紹介します。
香水として利用する
古くは媚薬としての効果が謳われていたこともあり、アンバーの香りを楽しむには香水として利用する方法が簡単です。適量を振りかけることで、温かみのあるパウダリーな香りを堪能することができるでしょう。
アンバー単体の香水は少ないですが、持続時間が長いこと、甘さのある香りなので付けすぎには要注意。足首や腰回りなどに1プッシュする程度で十分です。香水を利用するシーンや時間帯、季節によって付ける量を調整してください。
アロマディフューザーの活用
アンバーの香りが持つリラックス効果を実感したい場合は、香水よりアロマディフューザーの利用がおすすめです。アロマオイルの利用で、空間全体にアンバーの複雑でありながら温もりを感じられる香りを拡散できるでしょう。
アンバーの香りをより正確に楽しみたい場合、ディフューザーは熱や超音波を使わない製品を選びましょう。熱や超音波振動を利用したディフューザーは香りの変性を招くリスクがあるので、ディフューザーを選ぶ際にも少しこだわりを持つのがおすすめです。
まとめ
- 本来マッコウクジラの結石から溶剤抽出される香りだが、現在はほぼ合成香料
- アンバーの主要芳香成分は「テトラノルラブダン・オキサイド」
- 期待できる効果はリラックス&親しみ効果、薬理活性の研究も進行中
甘く複雑な香りであるアンバーは、古くから多くの人に愛されてきました。現在では天然物を手に入れるのは難しくなっていますが、愛されてきた香りだからこそ、高い再現性で合成された香りも十分に魅力的な香りです。
主成分を再現していることもあり、期待できる効果効能も似通っているといえるのではないでしょうか。そんなアンバーは、実は単体で使われることは少なく、香水・フレグランス共に多くの香りと調香されていることがほとんどです。
アンバーを用いたうえで自社に合った香りを利用したい。こう考えているのであれば、ぜひ香りの専門家である弊社にご相談ください。より使うシーンや企業・ブランドに合った香りの使い方をご提案させていただきます。