悪臭防止法・悪臭規制の解説《工場 編》
(作成日 2022.2.25)
ニオイを公害と定義し、法律で規制する「悪臭防止法」は、悪臭を排出するすべての事業所が対象となりますが、
このページでは特に、工場で必要な知識に絞って解説しております。工場の環境管理・脱臭装置選定・製造工程や排気ライン設備のご担当者の方は、ぜひご参考にしていただければと思います。
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悪臭防止法・悪臭規制について、工場で必要な知識をメインに解説します
工場臭気対策のプロが解説!
1.悪臭の法的規制「悪臭防止法」とは
悪臭についての規制として、国が定める悪臭防止法という法律があります。悪臭防止法では、一部例外を除き、悪臭を排出する全ての事業所が対象となります。
「悪臭防止法」とは
⼯場その他の事業場の事業活動に伴って発⽣する悪臭について必要な規制を⾏い、悪臭防⽌対策を推進することにより、⽣活環境を保全し、国⺠の健康保護に資することを⽬的とした法律。昭和46 年に制定。
特定悪臭物質22 種の物質濃度、臭気指数、臭気排出強度、による規制基準を設ける。
臭気指数および臭気排出強度の測定を市町村⻑より受託する者として臭気測定業務従事者(臭気判定⼠)を定める。
※引用元:「よくわかる臭気指数規制2号基準」(環境省・平成28年度改定版)
規制方法については、国が「悪臭防止法」として定めている規制の他に、各地方自治体が独自で定めているものもあり、地方自治体独自で規制を定めている場合にはそちらに準ずる必要があります。
■ 悪臭の規制方法 ■
国【悪臭防止法】x 地方自治体【(独自の規制基準を設定した)条例等】
規制基準
現在の法律では、臭気の排出規制及び敷地境界線での管理濃度の基準値として、臭気指数による規制基準と特定悪臭22物質の各単ガス濃度で規制基準を設ける2通りの方法があり、どちらか一方で規制されています。
■ 規制基準 ■
臭気指数 or 特定悪臭22物質の濃度
どちらの基準が適用されるかは自治体ごとに設定されていますので、ご自身の事業所の所在する自治体にて確認する必要がります。情報は、各自治体のホームページ等で入手することができます。
もともとは「特定悪臭22物質」規制のみの悪臭防止法でしたが、近年は、「臭気指数」規制を採択する自治体が増加しています。
※「臭気指数」規制・「特定悪臭22物質」規制については、後述で詳しく説明します。
規制がかかる場所
悪臭防止法で規制対象となるのは下記の3箇所です。
規制の場所 | 規制区分 | 規制の内容 |
地境界線上 | 1号規制 | 敷地境界線での管理濃度、明確な数字でいくつと定められています。 |
排気口 | 2号規制 | ニオイの排出規制、明確な数字で定められている場合もあるが、臭気指数規制は簡易シミュレーションソフト、特定悪臭22物質による規制は排ガス流量計算を用いて算出する方が多い。 |
排出水 | 3号規制 | 排出の臭気の強さに関わる基準。基準値は1号規制+16=3号基準。 |
敷地境界(1号規制)は規制値がいくつと定められており、排出水(3号規制)は敷地境界の基準値+16と非常に明快なのに対し、排気口(2号規制)は規制値を求めるためにシミュレーション算出や排ガス流量計算をしなければなりません。そのための手引きとなるのが、環境省が提供している資料です。
複雑な排気口規制(2号規制)については、次項で詳しく説明します。
規制値
規制の厳しさは、用途地域(工業、準工業、住居区域など)により異なります。
ご自身の事業所がどの用途地域かを確認し、対象地域に対する規制値を調べる必要があります。
各自治体のホームページ等で情報を得ることができます。
2.「臭気指数規制」「特定悪臭物質規制」とは?
悪臭の規制方法には、2種類があります。
①臭気指数による規制
②特定悪臭物質の単ガス濃度を用いた規制基準
自治体により、①または②のどちらかを採択しています。
ご自身の事業所が所在する自治体のホームページ等で、規制情報を入手できます。
①臭気指数規制
人間の鼻を用いてニオイを定量化(数値化)し、その数値で基準を定める方法です。
平成7年より、悪臭防止法に導入されました。
具体的には、試料を臭気が感じられなくなるまで無臭空気で希釈したときの希釈倍率(臭気濃度)の対数値に10を乗じた値です。
臭気指数 : 希釈倍率(臭気濃度)の対数値に10を乗じた値
嗅覚測定法によって数値化される「臭気指数」は、様々な成分が複合された「ニオイ」を人の感覚の違いも加味して定量化するため、実際の悪臭影響度に近い評価を行う事ができる方法と言われています。
近年、この「臭気指数」で規制する自治体が増えています。
②特定悪臭物質規制
悪臭原因の代表物質としてピックアップした22物質の濃度により規制する方法です。悪臭防止法制定以来、用いられてきた規制法です。
以下の22物質が指定されています。自治体により、臭気強度2.5~3.5の範囲内で敷地境界線上の規制基準(1号基準)を定めています。物質により、2号規制(排出口)、3号規制(排出水)も適用となります。
特定悪臭22物質の一覧・濃度と臭気強度の関係
特定悪臭物質名 | 規制適用 | 臭気強度/ppm | 臭気の質 | ||||
1号 | 2号 | 3号 | 2.5 | 3 | 3.5 | ||
アンモニア | ● | ● | × | 1 | 2 | 5 | し尿のような臭い |
メチルメルカプタン | ● | × | ● | 0.002 | 0.004 | 0.01 | 腐った玉ネギのような臭い |
硫化水素 | ● | ● | ● | 0.02 | 0.06 | 0.2 | 腐った卵のような臭い |
硫化メチル | ● | × | ● | 0.01 | 0.05 | 0.2 | 腐ったキャベツのような臭い |
二硫化メチル | ● | × | ● | 0.009 | 0.03 | 0.1 | |
トリメチルアミン | ● | ● | × | 0.005 | 0.02 | 0.07 | 腐った魚のような臭い |
アセトアルデヒド | ● | × | × | 0.05 | 0.1 | 0.5 |
刺激的な青臭い臭い |
プロピオンアルデヒド | ● | ● | × | 0.05 | 0.1 | 0.5 | 刺激的な甘酸っぱい焦げた臭い |
ノルマルブチルアルデヒド | ● | ● | × | 0.009 | 0.03 | 0.08 | |
イソブチルアルデヒド | ● | ● | × | 0.02 | 0.07 | 0.2 | |
ノルマルバレルアルデヒド | ● | ● | × | 0.009 | 0.02 | 0.05 |
むせるような甘酸っぱい焦げた臭い |
イソバレルアルデヒド | ● | ● | × | 0.003 | 0.006 | 0.01 | |
イソブタノール | ● | ● | × | 0.9 | 4 | 20 | 刺激的な発酵した臭い |
酢酸エチル | ● | ● | × | 3 | 7 | 20 |
刺激的なシンナーのような臭い |
メチルイソブチルケトン | ● | ● | × | 1 | 3 | 6 | |
トルエン | ● | ● | × | 10 | 30 | 60 | ガソリンのような臭い |
スチレン | ● | × | × | 0.4 | 0.8 | 2 | 都市ガスのような臭い |
キシレン | ● | ● | × | 1 | 2 | 5 | ガソリンのような臭い |
プロピオン酸 | ● | × | × | 0.03 | 0.07 | 0.2 | 刺激的な酸っぱい臭い |
ノルマル酪酸 | ● | × | × | 0.001 | 0.002 | 0.006 |
汗くさい臭い |
ノルマル吉草酸 | ● | × | × | 0.0009 | 0.002 | 0.004 | むれた靴下のような臭い |
イソ吉草酸 | ● | × | × | 0.001 | 0.004 | 0.01 |
《規制表の見方》
例えば自治体で採択している敷地境界戦(1号規制)での規制基準が「アンモニア:臭気強度2.5」だった場合、アンモニア成分濃度を測定し、1ppm以下に押さえなければいけない。
しかしながら人間の鼻で感じる事ができるニオイ物質は40万種類と言われており、限られた22物質のみに限定した規制では苦情解決が難しいという現実を経て、臭気指数という概念が生まれました。
近年では、臭気指数規制に変更する自治体が増えています。
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複雑な2号規制をシンプルに解説!
3.排出口での規制(悪臭防止法・2号規制)について
規制値(数値)が明快でない2号規制。
敷地境界では「規制値がいくつ」と定められており、排出水は「敷地境界の基準値+16」と非常に明快なのに対して、排出口規制はシミュレーションや排ガス流量計算をしなければ規制値が確認できないという、複雑な印象を受けます。
ポイントは、「敷地境界線の基準を守るための」「排出口での」規制値であるということです。
敷地境界線で守るべき悪臭レベルからさかのぼって、排出口の値を設定しているわけです。
臭気が大気解放後に薄まりながら飛んでいくことを考慮すると、排出口から敷地境界までの距離や排出口の高さなどを考慮して、希釈された後に敷地境界線で着地する臭気濃度(&臭気指数)が、敷地境界線での基準(1号基準)に適合しているかどうかという判断になります。
そのため、排出口基準はその時の状況によって変わります。ここが理解を難しくし、規制数値を知るために複雑な計算を求められる理由です。
数値算出に用いられる計算項目 | |||
---|---|---|---|
風量 | 排出ガスの排出速度 | 排出口高さ | |
排出口の口径 | 排出口の向き(上or横) | 周辺最大建物高さ | |
排気温度 | 水分量 | 排出口や建屋から敷地境界までの距離 |
「臭気指数」規制と「特定悪臭22物質」規制では用いる計算項目が異なりますので、まずはどちらで規制ががかっているのかを自治体に確認してください。また、規制基準の設け方についても様々ありますのでまとめてご確認ください。
そして採択されている規制がわかったら、
臭気指数 → シミュレーションソフト!
特定悪臭物質 → 手計算!
で「2号規制の基準値を算出する」と思ってください。次に各規制での算出方法をお伝えします。
臭気指数による2号規制
非常にややこしい計算となるため、シミュレーションソフトを活用します。
環境省から無料のシミュレーションソフトが配布されています。
》臭気指数規制用2号基準算定ソフト:ニオイシミュレーター
出典:環境省ホームページ
ソフトをダウンロードし、必要項目を入力すると2号基準が自動計算されます。
例えば上図の参考例でいうと、この条件での排出口規制値(2号基準)は臭気指数28(臭気濃度630)となります。
カルモアではより複雑な臭気拡散シミュレーション実現する独自開発ソフト「カルモス」をご提案可能です。
環境省/においシミュレーターが1方向(2D)しか算出できないのに対し、「カルモス」は360℃全方位(3D)のシミュレーションを実現します。
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360℃全方位(3D)の拡散予測を実現する高精度シミュレーションソフトです。
2号規制の算出のみならず、苦情回避対策の検討、脱臭装置導入前の効果検証などにお役立てください。
特定悪臭物質による2号規制
規制値は手計算で算出できるレベルです。
つくば市のページがわかりやすいのでご紹介します。
》特定悪臭物質2号基準算定方法
出典:つくば市ホームページ
以下、本ページから計算式を抜粋します。
q=0.108×He2・Cm(Heが5m未満となる場合については、適用しない)
q 流量(単位 Nm3/h)
Cm 1号規制の規制基準として定められた値(単位 ppm)
(補正された排出口の高さが五メートル未満となる場合については、この式は、適用しないものとする。)
He 補正された排出口の高さ(単位 m)(次式による)
He=Ho+0.65(Hm+Ht)
Hm=(0.795√(Q・V))÷(1+(2.58÷V))
Ht=2.01×10-3・Q・(T-288)・{2.30logJ+(1÷J)-1}
J=(1÷√(Q・V))×{1460-296×(V÷(T-288))}+1
Ho 排出口の実高さ(単位 m)
Q 温度十五度における排出ガスの流量(単位 m3/sec)
V 排出ガスの排出速度(単位 m/ sec)
T 排出ガスの温度(単位 。K) (つくば市HPより抜粋)
計算方法に沿って計算すると、悪臭22物質それぞれにおいて流量(単位 Nm3/h)、という基準値が算出できます。
4.悪臭防止法を順守しないとどうなるか
多くの場合、事業所で対策が必要となるのは、行政からの働きかけがあってからです。
行政措置は、一般的に以下のフローで行われます。
■ 行政措置の流れ ■
【改善勧告】→ 1年 →【改善命令】→ 1年 →【罰金、営業停止】など
以下は悪臭防止法に沿って行政措置が行われたデータです。
令和元年度には、1,269件の行政指導が行われました。
※引用元:「平成30年度悪臭防止法施行状況調査について (概要)」(環境省)
過去の調査データは環境省のサイトから見ることができます:
規制値クリアしても苦情は解決しない!?
5.悪臭苦情を解決・回避するノウハウ
悪臭苦情が発生すると、まずは悪臭規制値のクリアが求められます。
しかし、規制値を順守しているからといって、悪臭苦情が収まるとは限りません。
なぜなら苦情主(地域住民)にとっては、規制値のクリアではなく「不快なニオイを除去してもらうこと」が希望だからです。
そして行政もまた、悪臭が典型7公害の1つとして位置づけられている以上、住民の苦情に対応する必要があります。
規制値を順守しているのに悪臭苦情が収まらないケースとしては、以下のような例があります。
《規制値クリアしても悪臭苦情が収まらないケース》
-
- 排出臭気のピークで臭気測定を実施していない。
- 地形・気候などを加味せず、拡散シミュレーションを実施した。
- (特定悪臭物質規制の場合)22物質以外の成分が苦情の主原因となっている。
- 事業主が認識している臭気排出場所とは別の箇所が、苦情原因になっている。
他にも様々なケースがありますが、いずれにしろ、苦情が解決されない場合、
「臭気排出状況を適正に把握していない」ことが原因!
であることがほとんどです。
臭気排出状況の把握=臭気測定(臭気判定士等による臭気指数測定、悪臭成分濃度測定など)、
ではありません!!
悪臭苦情を解決するためには、
臭気状況を把握する=地域・苦情エリアへの悪臭影響度を把握する、
ことが重要なポイントです。
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