ビル・公共施設などにおける空気環境の設計(室内・排気)
建築に関わる技術者・業者にとって、室内の「空気環境」を整備し、維持することは不可避の時代となりました。
ビル衛生管理法をはじめとした規制の順守はもちろんですが、とくに近年、新型コロナウイルス感染拡大、WELL認証の流れなどを背景に、室内における「人の健康への配慮」という観点から空気質の向上が注目されています。
それは、法律順守の義務という枠を超え、建築物の「高付加価値」や「ブランディング」という視点からの広がりです。
この記事では、「空気環境の向上に対するソリューション」について、カルモア技術を中心にご紹介します。
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WELL認証の動向、建築物の空気に対する規制(ビル衛生管理法・建築基準法・悪臭防止法)などから、これからの建築内空気設計について提案します。
法律順守をベースとした安心安全な環境づくり
1. 建築物の空気環境設計に関係する法律・規制
「建築物の空気環境」に関連する法律・規制は多岐にわたりますが、最も基本となるのは、ご存じの通り「ビル衛生管理法」「建築基準法」です。
また、室外排気に対しては「悪臭防止法」が適用されます。
建築物の空気環境設計に関連する主な法律・規制
- 【室内】ビル衛生管理法・建築基準法 など
- 【排気】悪臭防止法 など
例えばビル衛生管理法では、ビルオーナーは6項目の空気成分:浮遊粉塵・一酸化炭素・二酸化炭素・温度・湿度・気流(+空気調和設備のある居室はホルムアルデヒド)に対して年6回の測定が求められ、特定建築物においては義務として課せられています。
ビル衛生管理法、建築基準法の他にも、対象エリアや建築物の使用用途によって以下の法律が関わります:
労働安全衛⽣法、⽔質汚濁防⽌法、下⽔道法、⽔道法、浄化槽法、廃棄物処理法、消防法、建設業法、電気事業法、ガス事業法、省エネ法、建築物省エネ法、環境配慮契約法、学校保健安全法、騒⾳規制法、振動規制法、化学物質排出把握管理促進法(化管法)、毒物及び劇物取扱法(毒劇法)、⼤気汚染防⽌法、公害紛争処理法 など。
この様な法律を通して、日本の建物は、
-
- 安全な建材の選定(室内)
- シックハウス対策(室内)
- 十分な換気量の確保(室内)
- 微生物・ウイルス・カビの対策(室内)
- 悪臭対策(排気・屋外)
- 排気除塵処理(排気・屋外)
などが確保され、空気環境の整備・維持が行われてきました。
2. 建物の価値をより高める動き「WELL認証」とは
WELL認証とは、「人の健康」に配慮した建物・室内環境・業務運用の認証システムです。
WELL(WELL Building StandardTM)は 2014年に米国で始まり、2021.9.22時点の累計登録件数は9,833件(68ヵ国)、うち486件(30ヶ国)が認証を受けています。日本ではの登録件数は61件、うち12件が認証を受けています。
日本では普及スピードがなだらかではありますが、世界的には急速に普及していることがうかがえます。
建物の評価・認証制度としてはLEED®やCASBEE®などが有名ですが、これらの制度は「建物」の性能を対象とする一方、WELL認証は「人間」への影響に評価基準を置いている点で、今までの制度とは異なります。
2018年5月に現行の第2版(WELL v2)がリリースされ、10のコンセプト・117の評価項目・225のパートから構成されます。
引用元:© International WELL Building InstituteのHP
このうち、空気環境対策のカルモアがご提案できる範囲は主に「Air:空気」です。
脳が「無意識に」ニオイに反応?!
3. 空気品質と生産性向上の研究結果の紹介
カルモアでは、杏林大学・古賀名誉教授と共同研究を行い、室内の空気品質が脳の活動や生産性に影響を与えることを実証しました。
【研究結果】
室内の空気品質を高めることで、脳のパフォーマンスを向上できる。
この研究結果は、人間への影響を評価しようとするWELL認証の評価軸とも整合します。
室内の空気質を高める対策は、その空間を利用する人間へのメリットのみならず、環境を整備する側にとっても大きなメリットとなるのです。
【実験内容】
検体: ①ブランク雰囲気 ②イオン雰囲気 ③香り雰囲気(シトラスハーバルの香りを使用)
調査対象: 1)パフォーマンス評価:20歳代~30歳代 健康な男女計18名 2)脳血液量測定:20歳代~30歳代 健康な男女計8名
パフォーマンス試験:
1)2-Backテスト :短期記憶の能力を測定
2)ウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST) 図形の認知及び論理的思考
3)内田クレペリンテスト変法:注意の持続と作業効率を測定する試験
五感への訴求をデザイン設計に盛り込む
4.ソリューション例1:香りの活用
前項、脳実験の通り、「香り空間では脳の活動・生産性が向上する」ことが実証されています。
実験に使用したのは、カルモア製シュヴァリテエールシリーズの『AQUA VERDE(アクアヴェルデ)』です。
集中力向上に効果が期待されるプチグレンやベルガモットなどの柑橘系と、ペパーミントなどのミント系の天然原料を主成分としています。
研究の結果、平均で1.3倍、女性においては最大1.6倍の生産性向上が確認されました。
「香り」は生産性向上のみならず、空間演出や消臭対策としても活用されているところではありますが、「人間の五感へアプローチする設計デザイン手法」としては、香り=嗅覚は最も活用が遅れていると言えます。
既に他の感覚については、ご存じの通り、以下のように発展しています。
- 視覚:照明デザイン、色彩デザイン、インテリアデザインなど
- 聴覚:音響デザイン、防音技術など
- 触覚:建材素材開発、自然融合デザインなど
「嗅覚」は、そもそも科学分野においても未開の部分が多く、その仕組みの多くは明らかになっていません。
つまり、依然として神秘性と可能性に満ちた世界だということです。
以下、シュヴァリテエールに寄せられるよくあるご質問を中心に、活用例をご紹介します。
Q1.どのような事例がありますか?
~仕事モードをONにする香り
カフェの様に気軽に使えて、尚且つ仕事が捗るワーキングスペース作りがコンセプトのコワーキングカフェの受付&カフェスペースにSuvaliteAirの香りを導入頂きました。
~エリア別に3種の香りで出迎える
香りを使って五感を刺激する空間プロデュースをされたマンションギャラリーでの事例。
コンセプトが異なるエリア別に香りの種類を変えて、エリアが持つ世界観を演出しました。
Q2.生産性向上に適した香りは?
生産性向上には、以下の効果がある香りが適しているといえます。
・集中できる
・リラックスできる
・アクティブに活動できる
・気分転換できる
シュヴァリテエールの香りラインナップから、期待したい効果をもとに選んでいただきます。
Q3.香りを空間デザインに取り入れることで得られる効果は?
① 香りは音や触感より重視される
空間内で重視する感覚の優先順位として、女性の約17%が聴覚(音)や触覚(触る)よりも嗅覚(香り)を重視してるという調査結果があります。
空間デザインに香りを取り入れることで、特別感の演出やおもてなしなどのサービスの印象度アップやブランドイメージの向上、デザインの差別化が期待できます。
② 香りは気分や感情をゆさぶる
嗅覚は五感で唯一、直接脳に働きかけて気分や感情に訴えかける作用があるので、集中力や効率アップ・ストレス軽減・リラックス効果を得られます。
また、好感度向上(ブランディング効果)を実現する可能性があるとされていますので、マーケティングにも効果的です。
③ 香りは記憶に残る
嗅覚によって得られた情報は、記憶をつかさどる大脳辺緑系に直接伝達されますが、嗅覚の記憶は他の感覚に比べ記憶低下レベルが少なく、記憶呼び起こしを助けるといわれています。
デザイン性や体験の記憶をより強力に印象づけ、香りを嗅ぐことで体験をフラッシュバックさせる効果があるため、リピート率アップにつながります。
Q4.香りの拡散方法は?
香りの拡散には専用のディフューザーユニットを使用します。
シュヴァリテエールでは、大空間でもしっかり香りをお届け出来るよう上方拡散用のファンを搭載したモデルや静穏性を重視したスタイリッシュなアルマイト仕上げのディフューザーをご用意しております。
また、ダクト設置型では、空調機の二次側給気ダクトに設置することで、空調機からの気流に乗せて室内に効率よく香りを供給することも可能です。
天然原料を使用した高級感溢れる至極の香りを空間フレグランスとしてお届けします。香りを用いて五感を刺激し、快適で特別なこだわり空間作りをサポートいたします。
求められる「感染予防対策」の強化!
5.ソリューション例2:微生物・カビの抑制
室内における微生物・ウイルス・カビなどに対する対策の必要性は、建築物衛生法、労働安全衛生法などによっても求められるところではありますが、WELL認証の評価項目でも「微生物・カビの抑制」が挙げられており、コロナ感染拡大を受けて不可避な分野となりました。
5~10年後には、微生物・空気質汚染物質を排除した空間づくりが「建築設備設計の常識」になっているかもしれません。
Q1.どのような事例がありますか?
①「ウイルス対策強化」を目指したラグジュアリーホテルの設計事例
ホテルがメイン入居者となる大型ビルにおいて、感染制御に配慮したビル設備にしたい。
ウイルス感染防止・除菌システムを空調と連動で組み込み、施設全体が対策済みの空気環境となるよう設計しました。入居企業様への設備サービスの一環として、ビルオーナー様がご導入されました。
Q2.酸素クラスターイオン方式のメリットは?
人体への有害性が指摘されるオゾンやUV(紫外線)と異なり、酸素クラスターイオンは安全性が高いとされており、有人空間(人が生活・往来する空間)での使用に適しています。
①弊社の酸素クラスターイオンによる高い除菌効果は、大学研究機関等でも証明され、実空間における多数のフィールドテスト結果で裏付けられています。
※マイクロプラズマ放電により生成される高濃度酸素クラスターは、エンベロープウイルス・院内感染原因となる菌類に対する除去効果が確認されています。
・エンベロープウイルス →2時間で99%以上の削減
・院内感染原因菌各種 →2~7時間で最大99.9%削減
②微生物制御の科学・技術の発展に貢献をテーマとした権威ある学術誌「日本防菌防黴学会誌」に、「医療関連施設感染の原因菌および真菌に対する殺菌効果」の結果が論文掲載されました。
日本防菌防黴学会誌 2021年度11月号(Vol.49, No.11(2021))
『マイクロプラズマ放電装置の抗菌薬耐性菌を含む各種細菌および真菌に対する殺菌作用に関する検討』
③「低温プラズマ放電によるイオン発生技術」は、東京都「令和2年度先進的防災対策技術実用化支援事業」に選定されました。
酸素クラスターイオンが有する除菌・抗ウイルス効果は、今後ますます注目されるだろうと考えております。
Q3.業務用の除菌・抗ウイルス装置の選定ポイントは?
類似している除菌・抗ウイルス装置を「業務用装置」の視点で性能を重視した選定を行う場合には、以下にポイントを置くとフィルターがかけられます。
①業務用としての実績があるか
②実空間・実使用に近い効果データがあるか
③できないことは何か(下の比較表、黄色のマーキング部分)
・例えば、「空気清浄機」は表面除菌ができません。
・UV(紫外線)装置では、光の当たらない裏側や遠いエリアを除去できません。
・「オゾン発生器」は低濃度では効果が不十分な可能性があり、高濃度では有人空間に向きません。
※オゾンはある濃度以上になると人体に有害であるため、有人空間においてオゾンを最適に扱うには、運用に十分な注意と計画管理をする必要があります。
弊社製酸素クラスターイオン方式の「WK-800」・「ライテイ」は安全性と高い除菌力を両立している業務用装置です。
「付着」「浮遊」両方の菌をモレなく攻撃するイオンバランスコントロール技術で、フィルター式空気清浄機やUV除菌装置の限界を超える!付着ウイルス 99.6%、浮遊菌 99.96%(※2)除去を達成します。
全国850か所の医療関連施設、累計納入台数5,000台超え(※3)を誇る酸素クラスターイオン技術の安全性・信頼性をそのままに、ウイルス・菌除去能力を強化した本製品。「東京都先進的防災技術実用化支援事業」にも採択されています。
Q4.感染予防対策で期待できる企業視点のメリットとは?
性能と安全性、意匠性を重視した弊社の酸素クラス―イオン方式を用いた感染予防対策は、以下3つの効果を期待することができます。
① 施設の設備条件やサービスを高めて付加価値・資産価値を上げる
空調システムに組み込むダクト設置型は、施設全体に酸素クラスターイオンを供給することが可能です。
除菌・感染防止機能を施設の標準設備として整えることにより、ハイグレードなテナントやオフィス、高級ホテルなどの誘致施策においてアピールポイントの一つになると考えます。
② 性能と安全性を重視した感染予防対策の取り組みでブランドイメージをUPする
衛生安全面の信頼性が求められるこの時代、安価というメリットだけで性能や安全性が不十分な機器ではなく、実証データを有し納入実績の豊富な機器で対策することで、企業イメージ向上につながり、集客・優秀な人材の確保・他社との差別化が期待できます。
③ 従業員を感染リスクから守ることでインナーブランディングを促進する
企業の要である従業員に安心安全な環境で働いてほしいという姿勢は、従業員の満足度向上につながり、従業員の企業ブランドに沿った行動は顧客満足度につながります。
結果として顧客に対するブランドイメージの向上につながると言えるでしょう。
④ 日常の維持管理が不要なので作業効率・生産性が向上する
空調システムに組み込むダクト設置型は空調機と連動するため、施設が稼働している間、空調機が稼働している間は、常に除菌対策が施されている状態を維持します。
一般的な除菌・抗ウイルス装置にあるフィルター清掃や運転管理等の作業負担がありませんので、本来あるべき、利益につながる時間を取り戻すことが可能です。
時代は、「攻めて」除菌する、へ。
空調の給気ラインにレビオンを設置し、施設内全体に酸素クラスターイオンを運びます。
人体に安全性の高い酸素クラスターイオンが空間内にあふれ、持ち込まれるウイルス・菌・ニオイ等を常に攻撃し続けます。
酸素クラスターイオンの高い除菌効果は、大学研究機関等でも証明され、実空間における多数のフィールドテスト結果で裏付けられています。
ビルの悪臭問題代表格!「厨房排気対策」
6. ソリューション例3:排気対策(法規制)
最後にご紹介するのは排気対策です。
排気臭も、建物が密接した都心部においては、建物内に侵入してくる臭気として問題になることがしばしばです。
特に飲食店のニオイは、悪臭苦情発生件数が1位となり、設計段階からの対策計画が求められます。
Q1.どのような事例がありますか?
①大型再開発での集合排気 事例
複合再開発プロジェクトで、排気風量74,200CMHの厨房排気系統へ脱臭装置を導入しました。設計段階における厳しい比較検討の中、性能・施工性・コストメリットが高く評価され、採択されました。
②テナント店舗での対策事例
複合施設ビルに入居している天ぷら屋に、近隣住民から臭気苦情が発生しました。
設計会社様経由にて、早急に臭気対策をしたいとのご相談。既にフィトンチッド系消臭剤による臭気対策を取られていた状況でのクレーム発生だった為、失敗は許されません。
脱臭装置の導入では、脱臭能力だけでなく、その効果検証ができる当社臭気判定士の専門的知見も決め手となりました。
Q2.なぜ排気対策が必要なのですか?
「悪臭」は環境基本法 第2条で定める「公害」(いわゆる典型七公害)
日本には「悪臭防止法」定められており、すべての事業所が対象となります。
悪臭防止法を順守しない場合、、、
【改善勧告】→ 1年 →【改善命令】→ 1年 →【罰金、営業停止】など の行政措置がとられます。
厨房排気臭を要因とした飲食業への悪臭苦情は、2019年度で669件あり、うち185件で行政の立入検査が行われました。(「令和元年度(平成31年度)悪臭防止法施行状況調査報告書」データより)
悪臭防止法と飲食店・厨房排気に関する詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。
Q3.厨房排気対策にはどのような種類がありますか?
以下は、セラミックフィルター式、消臭剤噴霧式、光触媒式などの代表的な厨房排気脱臭方式の比較表です。
厨房排気の苦情件数の増加を考えれば、実績が高く信頼性ある装置を選ぶべきでしょう。
脱臭対策30年のカルモアでは、厨房排気対策には「セラミックフィルター方式」をお勧めしています。
また、カルモアの厨房排気用セラミックフィルターゼオガイア脱臭装置は、他社製のセラミック系脱臭フィルターと比較すると、以下優位性が挙げられます。
-
- 設計のしやすさ(コンパクト・軽量・低圧損)
- 脱臭性能の高さ
- 性能持続力によるランニングコストの低さ
- メンテナンスのしやすさ
臭気苦情抑制率99.1%(※)、納入後に臭気苦情が発生するケースが極めて少ない脱臭装置です。
ぜひご検討の選択肢にお願いいたします。 (※稼働半年後までに臭気苦情が発生しなかった件数の割合。2020.10時点。)
性能アップでさらに軽量化!2022年1月、改良型をリリースしました。
設計への組み込みやすさ第一に、コンパクトさ・性能の高さ・メンテナンスのしやすさを追求した排気用フィルター。累計納入枚数は 27,000枚(※)を超えます。
厨房・料理臭専用に開発されたため高い脱臭効果を有し、飲食店・商業複合施設のみならず、食品製造工場の排気対策などにも導入される確かな脱臭装置です。
(※)2021.7末時点
7.まとめ
今回は「人間への影響を及ぼす空気質の向上」について、カルモアの技術範囲を中心にソリューションをご紹介しました。
コロナ感染拡大、WELL認証の流れを見ると、空気環境への意識の高まりは今後もさらに続きそうです。
新しい時代へ適応し、さらに、オーナー様や施設ご利用者様をより喜ばせられる建築物の創造。
「空気」という技術でカルモアはお手伝いをしております。
ご相談はぜひお気軽にお寄せください。