トルエン
トルエンは、別名:メチルベンゼン、トルオール、トロール、フェニルメタンと言われる有機物です。
一般的な表現としては、シンナーのような強力な臭いがすることから、悪臭防止法という法律で規制基準も定められている強力な臭気を放つ物質となります。
このページではそんなトルエン(CH3)について、以下のような内容を解説していればと思います。
このページで解決できること!
「トルエンとは?利用用途や臭気濃度の強さを紹介!」
「トルエンの発生場所やその原因まで解説」
「トルエンは人体にどのような影響を及ぼすの?」
「トルエンを含む施設・工場の対策事例をご紹介」
「トルエンの特徴や基本情報の一覧でまとめ」
という順序で、トルエンとはどんな物質なのかを詳しく解説していければと思いますので、よろしければ参考にしてください。
トルエンのニオイの特徴と、臭気強度の強さ
脱脂力・樹脂溶解力が非常に強い
トルエンは無色透明の液体の有機溶剤で「ペンキ・インク・接着剤」の原料や、その希釈液(シンナーの原料)としてよく利用されている化学物質です。
ただ、便利な反面「臭気の不快度が高く、毒性が強い」というデメリットも存在しているので、下記で解説していきたいと思います。
臭気がやや強い
トルエンの臭気を検知できるようになる数値(臭覚閾値)は0.33ppm~と他の悪臭物質と比較すると嗅覚閾値はそこまで低くはない(人間の嗅覚としては感じづらい)臭気と言えます。ただし、鼻の奥を刺すようないわゆる化学物質といったような不快なニオイを放つため、苦情に繋がるケースが多い臭気成分です。
ニオイの特徴としては、一般的に塗料や接着剤といった製品の溶剤及び洗浄剤として用いられるため、トルエンの匂いを「シンナー臭」や「塗料臭」と表現されることが多い物質です。
また、ニオイの質が特徴的であるため、臭気の有無がわかりやすく、一度不快に感じると苦情が続いてしまうこともあります。
毒性が強い(人体への影響が強い)
トルエンは人体に有害な化学物質です。環境や曝露(時間)によっては低濃度でも人体への 影響があり、特に中枢神経系への影響は区分1となっているため、取り扱いには注意が必要な物質です。(区分は数字が小さくなるほど人体への影響が大きくなります。)
項目 |
区分 |
---|---|
急性毒性(吸入:蒸気) |
区分4 |
皮膚腐食性・刺激性 |
区分2 |
眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性 |
区分2B |
生殖毒性 |
区分1A |
生殖毒性・授乳に対する又は授乳を介した影響 |
追加区分 |
特定標的臓器毒性(単回爆露) |
区分1(中枢神経系) 区分3(気道刺激性、麻酔作用) |
特定標的臓器毒性(反復曝露) |
区分1(中枢神経系、腎臓) |
誤えん有害性 |
区分1 |
水生環境有害性 短期(急性) |
区分2 |
水生環境有害性 長期(慢性) |
区分3 |
トルエンの発生源や排出施設はどこ?
トルエンは主に塗料・インク・シンナー・化学品の原料として利用される化学物質ですが、次ではどんな用途や施設で発生(排出)しているのかも解説していければと思います。
トルエンの使用用途(発生源)は?
塗料・インクの原料として
樹脂の溶解力が非常に強く、芳香族炭化水素は幅広い樹脂を溶かすことができる性質があることと、価格も安価で手に入りやすいという特徴から、「塗料・インク・接着剤」の原料や希釈剤としても利用されています。
シンナーの原料として
トルエンの特徴である溶解力を活かして「塗料・インク・接着剤」希釈剤や洗浄剤として使用されたり、脱脂力を活かし金属加工油の除去や、拭き上げ作業に使用されることがあります。
また、塗料として自動車の車体をはじめとした様々な製品の塗装にも用いられています。
各種化学品の原料として
「医薬品・染料・甘味料・香料・漂白剤・化薬・合成繊維・有機顔料」などの化学品の原料として利用されることがあります。
用途 |
推計排出量 |
---|---|
塗料用溶剤、塗料希釈剤 |
129,270 |
希釈溶剤(工業用溶剤) |
35,334 |
接着剤用溶剤、粘着剤用溶剤 |
15,314 |
印刷インキ用溶剤、電子デバイス用溶剤 インキ溶剤、インキ洗浄剤 |
4,943 |
合成反応用溶剤 |
1,728 |
ワニス用溶剤 |
1,030 |
こうしてみると、ほとんどが「塗料に用いられる溶剤・希釈剤」としてトルエンが用いられていることがわかります。
ただ、他用途でも主には希釈剤・溶剤として使用されることが多いため、トルエン=シンナー(うすめ液)という認識をされることが多くなりました。
トルエンの施設・工場別の発生量(排出量)
施設・工場 |
排出量(トン/年) |
---|---|
石油卸売業 |
38,512 |
出版・印刷・同関連産業 |
24,277 |
プラスチック製品製造業 |
20,964 |
パルプ・紙・紙加工品製造業 |
17,968 |
輸送用機械器具製造業 |
17,899 |
化学工業 |
14,834 |
ゴム製品製造業 |
9,418 |
トルエンの発生源は主に「塗料、工業用溶剤、コーティング剤、接着剤」の溶剤から発生することが多い化学物質です。
人体への影響も大きく、国内では2年連続で最も環境排出量の多い化学物質であるとされているため、トルエン対策は全国的にも課題となっています。
トルエンが人体へ影響を与える濃度と事故件数
トルエンの許容濃度
引用元:https://www.kes-eco.co.jp/safety-report/66
許容濃度
ほとんどの労働者に健康上の悪い影響がみられないと判断される濃度
50ppm
室内濃度
健康への有害な影響を受けないであろうと判断した濃度
0.07ppm
悪臭濃度
悪臭防止法における特定悪臭22物質における事業所の敷地境界線における規制濃度
10~60ppm(規制対象の自治体により異なる)
悪臭防止による規制基準としては臭気強度2.5~3.5相当を規制対象としています。
[臭気強度]
臭気強度2:何のにおいであるかわかる弱いにおい(認知閾値)
臭気強度3:楽に感知できるにおい
引用元:特定悪臭物質 測定マニュアル 環境庁大気保全局大気生活環境室
トルエンの臭気対策について
ツンとした化学的なニオイで不快度が強い事で有名なトルエンですが、先にもご紹介した通り、嗅覚閾値は他の臭気物質と比較するとそこまで低くなく、硫化水素や低級脂肪酸(カルボン酸)等と比較するとニオイがしづらい物質と言えます。
硫化水素の嗅覚閾値が0.00041ppmであることから硫化水素はトルエンの800分の1の濃度で検知できる計算になります。
とは言っても悪臭の苦情に関するお問い合わせの多い臭気物質であることは確かです。
苦情の要因として以下が考えられます。
①トルエンの排出濃度が高いこと
②臭気発生源や排出源から苦情エリアが近いこと
②トルエン以外の嗅覚閾値の低い物質と混合して排出されることで苦情となる
上記3点について
①については大気汚染防止法におけるVOC排出規制もありますので悪臭規制の前に大気汚染防止法における排出規制をクリアするところからスタートすることになり、排出規制をクリアすることで遠方への苦情となるような濃度で排出される可能性は低いと思われます。
②については立地環境によっては排出濃度を抑えていても苦情となる可能性が考えられます。適切なVOC処理対策や脱臭装置を導入する等の対策が必要です。
③についてケースとして特に多いのは湿式塗装ブースの排気です。湿式塗装ブースは塗装時のオーバースプレーを水流で回収するシステムですが、オーバースプレーの回収行う水流は循環して使用され、時間の経過ともに水中の溶剤濃度が濃縮されることで有機溶剤を栄養源とした微生物が増殖し腐敗が起こります。
この時に発生する腐敗臭気は嗅覚閾値が低く、トルエンのような有機溶剤臭気と比較すると悪臭の影響度が高い場合があります。
このように悪臭苦情の原因がトルエンの臭気と思っていたものが意外と違う物質の方が悪臭の影響度として高いケースもあるので対策の選定には注意が必要です。
トルエンの排出を減らすための最適な方法について
トルエンという化学物質自体の濃度を低減させる方法とニオイという複合ガスの影響度を低減するのではアプローチ方法が異なります。
トルエン単体の排出濃度を低減する方法としては、VOC処理装置を適切に設置する方法が考えられますが、他にも根本的な対策として容器や対象空間の密閉化や使用量の削減や代替えも推奨されています。
トルエンを含むニオイの対策としては、脱臭装置の設置や排出改善等様々な方法が考えられますが、比較的低濃度な複合ガスを対象とするため、対策が複雑化しやすいです。その為、まずは現在の状況を明確化し、目的に応じた対策の選定を行う事が望ましいです。
→アセスページリンク https://www.karumoa.co.jp/product/pro-service/consultation/
トルエンによる事故件数(中毒者・被災者・死亡者)
引用元:産業衛生学雑誌
「産業衛生学雑誌」の調査報告書の平成7~18年(12年間)までの有機溶剤による解析によれば、
- 中毒者数は年平均 23.5 件(計 188 件)
- 被災者数は年平均 40.1 人(計 321 人)
- 死亡事例は年平均 3.1 件(計 25 件)
- 二次災害事例は年平均 1.0 件(計 8 件)
というように事故件数の統計は以上のようになっており、決して少ない件数(人数)ではないことが分かります。次に有機溶剤ごとの事例発生割合を見てみると
引用元:産業衛生学雑誌
トルエンによる事例率は「製造業では32.7%」、「建設業では70.9%」、「その他サービス業23.5%」の事例が発生しており、有機溶剤の中でもトルエンによる件数は多い傾向にあるため、取り扱いには十分な注意が必要です。
カルモアのトルエンの臭気対策事例を紹介
自動車塗装工場の事例
脱臭効率 臭気濃度2,000 → 400 |
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コンサル |
デモテスト | ||||||||||||
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塗装ブース内の排気風量が合計10,000㎤/minを超えているため
通常通りの対策は現実的ではない。 -
他メーカーの消臭剤では効果が見込めず
行政から指導が入ったことで弊社へご依頼頂く。
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風量の小さいの高濃度排気には蓄熱式脱臭装置、風量が強力な箇所は消臭剤で対応。
-
独自の噴霧制御(風向・時間・設備)システムを導入しランニングコスト削減。
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脱臭方法を最適化することで、年間1/5のコストダウンに成功
STEP1
状況把握
脱臭器調査
STEP2
既存脱臭器
の問題整理
STEP3
ブース内の
排気対策立案
STEP4
システムのフロー構築
STEP5
噴霧装置とシステム導入
STEP6
効果測定
\ お気軽にご相談ください /
農機メーカー塗装排気の事例
脱臭効率 臭気濃度1,600 → 160 |
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コンサル |
消臭剤噴霧チャンバー | ||||||||||||
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風量の大きいラインが複数あり、脱臭装置の導入も容易ではない状態。
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塗装排気はクレームに繋がりやすい特性があり、周辺の住宅から苦情が発生。
-
風量に依存しない消臭剤マイクロゲルスプレーシステムを導入
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障苙形状となっており屋上に臭気がたまっている状態から上方排気に変更
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装置設計を簡易化したことで脱臭効率を確保しつつ
比較的安価で装置を導入
STEP1
状況把握
臭気調査
STEP2
熱気粉塵対策
気流を整備
STEP3
対策立案
STEP4
システムフローの構築
STEP5
装置設計
製造・納品
STEP6
効果測定
メンテナンス
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トルエン向け消臭剤をお探しの方は、オンラインショップでもお取り扱いしております。
トルエンのQ&A
シンナーとトルエンの違いは何ですか?
シンナーとは塗料の希釈液(混合溶剤)※のことを、メーカーが通称として「シンナー(うすめ液)」と呼んでいます。
トルエンはそのシンナーに含まれることの多い有機溶剤(成分)の一つとなっており、シンナーに必ずトルエンが含まれているわけではありません。
※:一部単体溶剤の場合がある
トルエンは水に溶けますか?
トルエンは水に溶けにくい(非水溶性)ですが、アルコールや油類には溶けやすい性質を持っているため、塗料や接着剤のうすめ液として有名なシンナーの主成分として用いられることが多くなっています。
トルエン対策は法的に義務付けられていますか?
→トルエン対策に関する関連法令は様々ありますが、排出規制に関する関連法令は下記の通りです。
- 大気汚染防止法
- 悪臭防止法
工場の室内のトルエンのニオイを抑えるにはどのような方法がありますか?
→室内の対策としては局所排気を設ける、部屋全体の換気回数を改善する、脱臭装置を設ける等様々な対策方法が考えられます。
目標値や対策規模やご予算に応じて対策内容が異なるのでお困りの際はご相談頂けますと幸いです。
トルエンのニオイを簡単に数値で確認する方法はありますか?
→ニオイの数値化には様々な手法があります。最も精度の高い方法としては、悪臭防止法の規制基準値に採用されている臭気指数測定を行う事ですが、測定に際して費用や時間を要します。
より簡単な方法としてはVOCセンサーやニオイセンサーを用いることが挙げられます。VOCセンサーであればトルエンに対して対象ガスの濃度を測定することが可能です。ニオイセンサーは対象ガスを複合ガスとして総量として測定を行います。
ニオイという複合ガスに対する測定としてはニオイセンサーがオススメですが、用途や目的に応じて測定方法を選定頂く事が望ましいです。