「シックハウス症候群」というワード、近年はよく聞くようになりました。
シックハウス症候群とは、住宅内で起こる健康被害のうち室内の空気汚染に由来するものの総称です。シックハウス症候群の予防や対策は、住宅の環境を守るという観点で、SDGsの取り組みとしても注目されています。
今回は「シックハウス」の一般的な原因と対策について、ご紹介いたします。
主な原因
シックハウス症候群は上述の通り、室内の空気汚染が原因となって起こります。具体的には以下のような項目が挙げられます。
<主な原因>
①化学物質(新建材、防虫剤、芳香剤、化粧品、ストーブ、たばこなど)
②換気不足
③ダニ、カビ
①化学物質(新建材、防虫剤、芳香剤、化粧品、たばこなど)
化学物質として最も影響が大きいのが、新建材などから発生する、揮発性有機化合物(VOC)です。VOC(Volatile Organic Compounds)は、常温で揮発しやすい性質を持つ有機化合物の総称です。
新建材には、加工時に防腐剤や防虫剤として化学物質が添加されているものが多くあります。こういった化学物質が常温で揮発し室内に放散されることで、室内のVOC濃度が上昇し、シックハウス症候群の原因となります。新建材以外にも、ペンキやワックス、接着剤などもVOCの発生源の一つです。
その他にも、日常生活で使用する防カビ剤や防虫剤、化粧品やガス器具なども化学物質を含むため、場合によってはシックハウス症候群の原因となりえます。
②換気不足
近年の住宅は冷暖房効果を高めるため、高気密高断熱な造りとなっており、換気口を使って換気を行う必要があります。しかし、別の都合で換気口を閉じてしまったり、給気が不十分だったりすると換気不足になることも。
換気が十分に行われないと、室内の空気が新鮮な空気に入れ替わりにくいため、シックハウス症候群を引き起こしやすくなります。
③ダニ、カビ
ダニの死骸やカビの胞子もシックハウス症候群の原因の一つです。近年は住宅の高気密高断熱化により、結露しやすく湿気が籠りやすいため、ダニやカビが繁殖しやすい環境になりがちです。
なお、ダニやカビを防ぐための防ダニ剤やダニ駆除剤、防カビ剤などの化学物質が、量やその濃度により人体に有害となることもあります。
シックハウスの基準、規定
シックハウスとなりやすい環境かどうかを判断するため、またシックハウスを防ぐため、いくつかの基準や目安が定められています。
この基準や目安に順守しているからと言って、必ずしも安全と言い切れるわけではありませんが、最低限守るべきラインとして、意識しておくことが大切です。
<国が定める目安、基準>
①厚生労働省の目安
②建築基準法による規制
①厚生労働省の目安
快適で健康な室内空間を確保することを目的に、個別の揮発性有機化合物(VOC)に対して「室内濃度指針値(ガイドライン)」が、総揮発性有機化合物(T-VOC)に対し暫定目標値が設けられています。
揮発性有機化合物 |
室内濃度指針値 |
ホルムアルデヒド | 100 ㎍/㎥(0.08 ppm) |
トルエン | 260 ㎍/㎥(0.07 ppm) |
キシレン | 200 ㎍/㎥(0.05 ppm) |
パラジクロロベンゼン | 240 ㎍/㎥(0.04 ppm) |
エチルベンゼン | 3800 ㎍/㎥(0.88 ppm) |
スチレン | 220 ㎍/㎥(0.05 ppm) |
クロルピリホス | 1 ㎍/㎥(0.07 ppb) |
フタル酸ジ-n-ブチル | 17 ㎍/㎥(1.5 ppb) |
テトラデカン | 330 ㎍/㎥(0.04 ppm) |
フタル酸ジ-2-エチルへキシル | 100 ㎍/㎥(6.3 ppb) |
ダイアジノン | 0.29 ㎍/㎥(0.02 ppb) |
アセトアルデヒド | 48 ㎍/㎥(0.03 ppm) |
フェノブカルブ | 33 ㎍/㎥(3.8 ppb) |
総揮発性有機化合物(T-VOC) |
暫定目標値 400 ㎍/㎥ |
〈出典:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3866&dataType=1&pageNo=1,平成31年1月17日〉
※ホルムアルデヒドは短期暴露、その他の物質は長期暴露による毒性を指標として策定。
※暫定目標値は、合理的に達成可能な限り低い範囲にて決定されている。
※法的拘束力はない。
②建築基準法による規制
平成15年の建築基準法の改正に伴い、クロルピリホスの使用禁止、ホルムアルデヒドの建材の使用制限、換気設備設置の義務化がされました。ホルムアルデヒドについては危険度でレベル分けされ、レベルごとに使用可能な場所が決まっているなど、かなり細かく基準が定められています。
しかし、あくまで建築物の最低基準を定めた法律ですので、遵守したからといって必ずしも、シックハウスが防げるわけではないため、注意が必要です。
対策法
シックハウス症候群の対策は、原因となる物質を無くす、低減させることにつきます。具体的には、以下のような対策が挙げられます。
<対策法>
①化学物質をなるべく含まない建材や、家具を使用する
②日常的に室内の換気を行う
③ベイクアウトで建材などに含まれる、化学物質を放散させる
④化学物質を吸着、分解するような設備を敷く
①化学物質を放散しにくい建材や、家具を使用する
室内の化学物質濃度は、室内に化学物質を放散する建材が多く使われているほど高くなります。よって建材や家具の選び方によって、化学物質濃度を低減することができます。
なるべく化学物質が使われていない建材や、長期間の熟成や保管を行い化学物質の放散量を低減させた建材を選択することが望ましいです。
またどんな建材が使われているかだけでなく、その建材が外装から内装仕上げや家具など、どんな場所に使用されているかによっても室内の化学物質濃度への影響度は変わってきます。
一般的には室内に近い場所(内装仕上げ材など)ほど室内への影響度が高いですが、換気の状態によっては天井裏や躯体内の空気が室内に流れ込み、大きな影響をもたらす場合もあります。
②日常的に室内の換気を行う
室内に化学物質が放散されていても、日常的に換気を行い、室内の汚れた空気を新鮮な空気に入れ替えることで、室内の化学物質濃度を低減させることができます。換気は結露の予防、カビやダニの繁殖予防、酸素の供給などの役割も果たし、非常に有用性が高い手段です。
窓を開けたり、換気設備を使用して新鮮な外気を取り入れるだけでも、簡単に換気の効果は得られます。しかし、やみくもに換気量を増やすだけでは、冷暖房効果の低減などの弊害を引き起こします。効率よく換気を行うためには、適切な換気方式や換気量を検討し、計画的に換気を行うことが必要です。
<効果的な換気のコツ>
・室内空気の出口と外気の入り口の2か所を開放する
・室内(住宅内)全体に新鮮な空気が流れるよう、空気の通り道を作る
・部屋の隅など、空気のよどみやすい場所がある場合は、扇風機やサーキュレーターを利用する
・なるべく排気ガスなどによる汚染が少ない場所から、外気を取り入れる
・外気の湿気を取り込まないよう、晴れた日の湿度の低い時間帯に行う
③ベイクアウトで建材などに含まれる、化学物質を放散させる
室内の化学物質濃度を低減させる方法の一つに、ベイクアウトという手法があります。
ベイクアウトとは、建材などに含まれるVOCの持つ「温度が高くなるほど放散量が増える」という特性を利用して、強制的に建材内部の化学物質の揮発を促進させる手法です。
ベイクアウトは、加熱による化学物質放散の促進と換気を繰り返すことで行われ、一見シンプルで簡単にに思われます。しかし、加熱する温度や時間、換気の方法により大きく効果が変わってくるため、きちんと効果を得るためには技術と経験が求められます。
やり方によっては、内装材を痛めたり、放散した化学物質が他の建材に吸着して再放散されるといったリスクを伴うため、実施する際にはプロに依頼するのが安全です。
④化学物質を吸着、分解するような設備を敷く
空気中のVOC濃度を低減させることを目的とした、化学物質濃度低減化材料というものを活用するのも一手です。仕組みとしては、空気中のVOCを表面に吸着保持したり、化学的に分解して別の物質に変化させたりすることで、VOC濃度の低減を目指しています。
その中には光触媒を活用するなど、最先端の技術を搭載した材料もあります。
しかし実際の空間において、どれだけ室内のVOC濃度を低減できるか、その効果を評価する方法は確立さおらず、明確に材料の効果を評価できない点が課題となってます。
現在シックハウスでお困りの場合は、カルモアにてシックハウスの測定や対策も実施可能です。
気になることがございましたら、お気軽にご相談ください。
まとめ
シックハウス症候群の原因は、住宅内の様々な場所に潜んでいます。
新築住宅の竣工直後はもちろんですが、改築工事や小規模リフォーム、リノベーション、家具の新調後も、十分に注意が必要です。また暮らし始めた後も油断せず、日々の換気や掃除を行い予防していきましょう。
住宅は人生の中で長い時間を過ごす場所です。
安心して過ごせる空間となるように、防災面だけでなく、室内の空気環境にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
参考:
「シックハウス診断士 公式テキスト(改訂第2版)」,特定非営利活動法人シックハウス診断士協会,2019年9月1日
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